ヒマラヤと日本
Relationship between the Himalaya and Japan
マラヤと日本は関係ないでしょう?」「何で、ヒマラヤに関心を持たねばならないの?」 この様なお言葉を、これまでに
講演の際などに尋ねられました。 実に、ヒマラヤ地域と日本は古来大いに関係がありますし、私たちが注視すべき場所なの
です:
「ヒ
今から遥か昔、約5000万年前にインド亜大陸がユーラシア大陸に
衝突して誕生したのが「ヒマラヤ」です。ヒマラヤは東西約2400km南北約250kmの広大な地域で、その中に日本の本土がすっぽりと収まってしまいます。この長大な壁・ヒマラヤ山脈は偏西風を蛇行させます。毎年6月、赤道近くのインド洋上で発生した水蒸気は雲となってインドを北上しますが、ヒマラヤ山脈により蛇行した偏西風に乗って雲は東へと移動していきます。結果、水分を豊富に含んだその雨雲は、中国の南部から東南アジア地域に多量の雨を降らせます。これが、アジアモンスーンで、豊かな農業地帯を作り上げています。
風土
チベット高原
インド亜大陸
ヒマラヤ山脈
このモンスーンの雨雲は更に北東方向に移動し、太平洋の水蒸気を吸い込んで日本列島に沿って停滞します。6月頃の梅雨前線はこのモンスーンによるものであり、日本列島に水の恵みをもたらしています。もしヒマラヤ山脈が今の半分の高さであったら、偏西風は蛇行せず日本の雨量は現在の半分程度になると、気象庁気象研究所ではシミュレートしています。地球規模で見れば、日本列島の緯度の場所は乾燥地帯にあたり、世界の主要な砂漠はほぼ同じ
緯度に位置しています。反対に、日本は四季豊かな温帯湿潤気候で
、国土の大半を覆う山々には、世界一豊かな広葉樹が生い茂ってい
ます。つまり、ヒマラヤが無ければ、日本が現在の様な豊かな自然
環境を有することも、それを基とする「和」を初めとする精神風土
が育つことも無かった訳です。これは、ヒマラヤと日本との間で起
こった“自然の奇跡”だと言えるでしょう。
6世紀に伝来して以来、仏教は、“「和」の精神”、禅、茶道、書道、武士道など
日本のユニークな文化や人々の意識の形成に大きな影響を及ぼしてきました。現代社会の中で仏教は表向きには目立たなくなっているとはいえ、葬祭は今日でも確かにその伝統に則って行われています。また、混迷しストレス過多の現代社会の中で、老若男女を問わず、仏教に生き抜く活路を見出そうとしています。坐禅や写経に励む”プチ修行”、静寂且つ激しい「美」に安らぎを見出す“仏像ブーム”なども、その表れでしょう。日本の人々
の心の中に仏教は今でも確かに息づいているのです。仏教の開祖、
釈迦(ゴータマ・シッダルタ)は、ヒマラヤ山麓のルンビニ
(現ネパール南部)で生を受け釈迦族の皇子として育ち、後に出家
し、ヒマラヤが深く関係する広大なインドの大地で苦行を重ねていき
ます。そして、ついに悟りに至るのです。。生誕地ルンビニ(ネパ
ール)と成道の地ブッダガヤ(インド)は、世界遺産文化遺産に
登録され、日本を含む世界中から多くの人々が巡礼に訪れています。
文化
ヒマラヤは名だたる大河、インダス、ガンジス、ブラマプトラ、長江の水源で
す。すなわち、大氷河の一滴よりそれら大河は成るのです。現在、地球温暖化により、その氷河が急速に融けています。そのため、将来、ガンジス河が干上がってしまうと警鐘を鳴らす専門家もいます。その危惧の念は、ガンジスに留まりません。ヒマラヤ水系には推定13億人が暮らしていると言われます。その河川が干上がってしまえば、今世紀の世界の大きな課題の一つである「環境難
民」が大量に発生するでしょう。当然の如く、アジアの大国の
一つである日本にも避難民受け入れ等の対策が迫られます。温暖化
によるヒマラヤの氷河融解とは“対岸の火事”などでは決してな
く、CO2を大量に排出する日本社会と密接に関連しており、私たち
の日常生活に早晩確実に悪影響を及ぼしてくるものなのです。多数
のシリア難民受け入れに苦慮する欧州諸国の姿がクローズアップ
される今、日本は環境難民の課題にも積極的に取り組む時期にあ
るといえるでしょう。
社会問題
以上は、ヒマラヤと日本との繋がりを示す僅かな例に過ぎません。しかしながら、現在、最も
重視すべきは、双方の共通課題に対してです。例えば、ヒマラヤ地域でも近年特に顕著となっ
ている開発・消費と環境保全とのバランスを如何に取るかの問題は、福島原発事故以来、改めて
日本を初めとする世界に突きつけられた緊急の課題でもあります。
又、平和な社会の構築の為に、私たち日本人は、民族や宗教が混在
するヒマラヤ地域同様、我々が暮らす社会における多様な文化、
民族(性)等を如何に尊重していくかを真剣に問い直さねばならな
いでしょう。
つまり、「ヒマラヤ世界」を凝視、探究すると、日本や世界の目指すべき姿がより明確に見えてくるのです。
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